技術情報

HPLCカラムの上手な使い方 後編

HPLCカラムの上手な使い方 後編

ここでは、カラム以外の情報も含めて、HPLC を使う上でお役に立てるようなノウハウやデータをご紹介いたします。

 

7. メソッドの堅牢性を高めたい場合は…

HPLC での測定条件が一度確立できても、しばらく後に同じ分析を行っても再現できない場合があります。そのようなトラブルを未然に防ぐためのノウハウをいくつかご紹介します。

新品のカラムで測定し直して確認する

カラムに強く吸着している成分は、カラムの洗浄を充分に行っても残存してしまう場合があります。
この時、残存成分がその後の分析の結果に影響を与える可能性があります。その代表的な例が図7-1 に示す二次吸着です。
このケースでは残存成分の影響により結果が悪くなる方向に変化していますが、場合によっては残存成分の影響により、本来分離しないはずのものが分離してしまうことがあります。そのまま確認をせずに試験法として確立してしまうと、カラムを変えた時に再現できず、大きな問題となります。
このようなトラブルを未然に防ぐため、メソッドを確立する時には新品のカラムでも同じ結果が再現できるかどうかを確認することをお薦めしています。
また、最近のカラムでは少なくなりましたが、以前は充填剤の製造ロットごとに分離パターンが若干変わってしまうということがありました。
これも確立した試験法が再現できなくなる要因となるので、可能であれば、異なる製造ロットの充填剤であってもその測定が問題なく行えるということをあらかじめ確認するようにしてください。

図7-1 二次吸着によるクロマトグラムの変化

メソッドを作成した人とは別の人が溶離液を調製してみる

目的成分や測定条件によっては、溶離液の組成が少し変化しただけでも保持時間や分離パターンが大きく変わります。そのため、別の人が溶離液を作っても目的の分析ができるくらいの頑健性があるかどうかを確認することは重要です。
特に、緩衝能の少ないpH 領域の場合や、どちらかの溶媒の比率が極端に低い場合には、溶離液組成のわずかな違いが分析結果に影響を及ぼしやすいので、可能であれば緩衝能のあるpH を設定したり、温度の違いに起因する密度の変化による影響を受けない重量比で溶離液を調整することもお薦めしています。


8. 汎用装置でのスケールダウン

汎用のHPLC のシステムでは内径4.6 mm のカラムが多く使われていますが、内径3.0 mm のカラムに変えることで同等の測定結果を得ながら溶媒の使用量を半分以下に節減することができます。
測定条件についても特に複雑な変更が必要なわけではなく、単純に流量を0.4 倍にするだけでスケールダウンを行うことができます。

図8-1 スケールダウンによる溶媒使用量の削減

スケールダウンを行う上で重要になるのが、溶離液の線速度です。
線速度とは、単位時間当たりにカラムの軸方向に移動する距離を示し、下式のように表わされます。
アイソクラティック分析の場合、カラムの太さ(断面積)に応じて流量を変えれば同一線速度に保つことが可能で、その状態であれば保持時間や分離パターンはほとんど変わりません。

 

9. 汎用装置での分析の高速化について

図1-4『Van Deemterʼs plot』より同じ種類の充填剤では粒子径を小さくすると分離性能が向上するだけでなく、線速度を上げる事によるカラムの性能低下が起こりにくい為、分析の高速化を行う事が可能です。
しかし、粒子径を小さくすると圧力も高くなりますので、注意が必要です。(図1-3 線速度と使用圧力の関係)を参照

図9-1 高速分析例

◆高速分析を検討する際のカラム選択の目安について
 高速化する際には、粒子径の変更、長さを選択する必要があります。
 下表はカラム長さ、内径を変更した際のナフタレンピークの理論段数になります。
 充填剤粒子径が細かいカラムを用いて、理論段数を維持しながら流速を上げて分析時間の短縮をすることが
 可能です。

 

10. シリカモノリスカラムについて

シリカモノリスカラムは、従来のシリカ粒子充填型とは異なり、シリカ骨格が網目状に重合した一体型構造を持っています。その特長としては、粒子充填型よりも通液性において優れており、相対的に低い圧力で送液できることが挙げられます。
シリカモノリスカラムである MonoClad C18-HS は、5 μm の粒子充填型カラムと同程度の圧力で 3 μm の粒子充填型カラムと同程度の分離性能が得られるように設計されており、汎用の装置での高速分析に適したカラムです。また、圧力が低いという点を生かして、カラム長さを2 m としたのがMonoCap C18 High Resolution 2000 です。
LC としては圧倒的に高い理論段数が得られ、特にプロテオーム解析などにおいて高い評価をいただいております(MonoCapシリーズのページを参照してください)。

図10-1 粒子充填型シリカゲルとシリカモノリスの拡大図 / 図10-2 シリカモノリスカラムと粒子充填型カラムとの性能比較

このシリカモノリスは、固相抽出の担体としても利点があります。
圧力が低いので遠心操作(10,000 g で1 分など)のみで通液することが可能であり、固相抽出にあまり慣れていない方が使っても人的誤差が生じにくいです。
また一体型の構造なので粒子を充填させる場合と違ってフリットが不要であり、より少量の溶媒で目的成分を溶出させることができます。
MonoSpin シリーズは、このような特長を持つシリカモノリスディスクを担体として使用している固相抽出のためのスピンカラムであり、特にサンプルが少量しかない時に便利な前処理ツールです。

MonoSpinの写真
図10-3 尿中のパラコートとジクワットの測定例

 

11. HPLC で使用する有機溶媒について

■ 溶媒のUV 吸収

HPLC において最もよく使用されている検出器はUV 検出器であるため、溶離液に使用する溶媒としてはUV 吸収の少ないメタノ-ル、アセトニトリル、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)などが多く用いられています。
これらの溶媒には、よりUV 吸収を少なくしたHPLC 用溶媒も市販されています。
実際にグレ-ドの異なるアセトニトリルを用いてグラジエント分析を行うと、特級アセトニトリルでは溶媒のUV 吸収によりベースラインが大幅に変動してしまい、正確な定量が難しくなります(図11-1)。また、前処理や分取などでは、濃縮した際に、溶媒中に含まれている不純物濃度が高まるので特に注意が必要です。

図11‒1 溶媒のグレードとグラジエント分析におけるベースラインの関係

■ 溶媒の添加剤

HPLC 用のTHF には溶媒の安定剤が添加されていませんが、特級以下のグレードのTHF には酸化防止剤として、3,5-Di-tert-butyl p-hydroxytoluene(BHT)が添加されています。
逆相クロマトグラフィーでグラジエント溶出する際に、グレードの低いTHF を用いると、BHT もピークとして検出されることがあるので、注意が必要です。
また、試料の希釈溶媒として使用した場合は、BHT が不純物として検出され同定ミスの原因となることもあります。一方、HPLC 用THF は、徐々に酸化されますので、開封後の保管期間に注意してください。

蛍光検出器の場合
励起光の波長(Ex)と検出波長(Em)が近い場合、溶離液のラマン散乱光も検出されることがあります。
これにより、バックグラウンドの値が上昇し、ベースラインのノイズが大きくなることもあります。

質量分析計(MS)の場合
溶離液中に揮発しにくい溶媒や塩が多く含まれている場合、イオン化効率が低下して検出感度が悪くなります。
そこで、塩濃度が低くても良好なピーク形状が得られるようなカラムを使ったり、目的成分がカラムから溶出する時点において溶離液中のメタノールやアセトニトリルの濃度がなるべく高くなるような分離モードを選択したりすることで、検出感度を改善することができます。
また、イオン源に汚れが蓄積している場合にも感度が悪化しますので、定期的にメンテナンスを行うことをお薦め致します。

■ 溶媒の粘性

溶媒の粘性は、カラム圧力に影響を与えます。
一般的には、粘度の低い溶媒の方が圧力がかかりにくいので使いやすいです。
ヘキサンを含む溶離液から水系の溶媒に変更する場合などに中間溶媒として用いられる2-プロパノールやエタノールは粘度が高いので、圧力に注意し、流量を落として置換を行なう必要があります。
また、メタノールは単独では粘度は高くありませんが、水と混合すると圧力が上昇するので、注意が必要です。(図6-2 も参照してください。)

 

12. 接液部に使われる材質について

HPLC では、用途に応じて接液部の材質が使い分けられています。
圧力がかかる部分には耐圧性に優れたSUS とPEEK が使われています。
SUS はPEEK よりも耐圧においては優れていますが、 PEEK はSUS とは違って簡単に折り曲げることができるので使いやすいというメリットがあります。
また、金属イオンの混入を避けたい場合にもPEEK が使われてます。
一方、圧力がかからない部分には、耐薬品性に優れたPTFE が多く使われています。

SUS: ステンレス(316 は規格で、LC では316 が多く使われている)
PEEK: ポリエーテルエーテルケトン
PTFE: ポリテトラフルオロエチレン

 
  SUS 316 PEEK PTFE
  水
  酢酸
  リン酸
  塩酸 ×
  硫酸 × ×
  硝酸 ×
  水酸化ナトリウム
  メタノール
  アセトニトリル
  エタノール
  アセトン
  THF ×
  DMSO ×
  クロロホルム ×
  ヘキサン
注) 耐薬品性は、使用温度や薬品の濃度によっても変わる場合があります。



13. イオン交換相の吸着特性

イオン交換モードでは4級アミンやスルホン酸などが修飾されたカラムを使用しますが、それらの官能基は対イオンとなる成分によって親和性が異なります。
この親和性によって保持の強さも変わってきますので、目的に応じて溶離液に使用する緩衝塩の種類を変更する必要があります。