技術情報

基本的なシリンジの使用方法

1. シリンジの取り扱いと使用方法

シリンジの操作は比較的簡単ですが、性能を最大限に発揮し、長寿命化するためのコツがあります。
ここでは、ハミルトンシリンジの最適な使用方法とメンテナンスのポイントを紹介します。

日常使用時の基本手順

STEP1:シリンジの点検

使用前には必ずシリンジを点検し、ひび割れや乾燥した残留物などの損傷がないかを確認してください。また、ニードル先端に前回の使用によるバリ(かえり)がないかもチェックします。ひび割れがある場合は新しいシリンジに交換し、バリのあるニードルは使用しないでください。

注意:ガスクロマトグラフへの注入にバリのあるニードルを使用すると、注入口セプタムを損傷し、サンプルロスやピーク形状の劣化を引き起こす可能性があります。

交換針型の場合はシール面も確認します。ニードルハブとシリンジ接続部の結合部を点検し、シール面に損傷・傷・欠けなど、気密性を損なう恐れのある異常がないかを確認してください。

STEP2:ニードルの取り付け

交換針型シリンジをご使用の場合は、まずニードルを取り付けます。固定針型シリンジをご使用の場合は、STEP3に進んでください。

クリーニングワイヤーを取り外す

ハミルトンの27~33ゲージのニードルには、出荷時にニードルチューブ内へクリーニングワイヤーが挿入されています。ニードルを取り付ける前に、必ずこのワイヤーを取り外してください。
片方の手でニードルハブ(基部)をしっかり持ち、もう片方の手でクリーニングワイヤーをつまみ、優しく引き抜いて完全に取り除きます。取り外したワイヤーは再使用せず、廃棄してください。

RN交換針型シリンジ

シリンジのナットを取り外し、ニードルをシリンジハブに挿入します。その後、ナットをニードルにねじ込み、シリンジ本体にしっかりと締め付けて固定してください。この接続は、指でしっかり締める程度の力(指締め)で気密性の高いシールが得られます。

ルアーチップシリンジ

Kel-F ニードルハブを、すりガラス製のルアーチップ(LT)接続部に押し当て、軽く回転させて確実に密着させてください。

PTFEルアーロックシリンジ

金属製またはKel-F ニードルハブを、ネジ山が噛み合うまでPTFEルアーロック(TLL)接続部に押し当ててください。ハブを時計回りに回転させます。ネジによってハブがTLL接続部へと引き込まれ、確実な密着が形成されます。

STEP3:握り方(体温への配慮)

手の体温がガラスバレル(筒)に伝わると、内部のサンプルが膨張して体積が変化してしまいます。液体の吸引・吐出の際は、必ずシリンジの「フランジ」と「プランジャー」を持つようにしてください。

メモ:Hamiltonシリンジの精度および再現性の仕様値は、25℃の一定温度環境での測定条件に基づいています。

STEP4:サンプルの充填(プライミングと気泡抜き)

シリンジ内に空気が残っていると、計量精度や再現性に悪影響を及ぼします。ニードル先端をサンプル溶液に2〜3mmほど浸し、気泡が見えなくなるまでプランジャーの吸引と吐出(ポンピング)を繰り返して空気を完全に除去してください。

大容量シリンジの場合は、シリンジを垂直に立てて気泡を上部のニードル側へ浮上させ、空気とサンプルを同時に押し出すことでも除去できます。

デッドボリュームがシリンジ容量の20%以上の場合

サンプルを吐出した後、ニードル内部にわずかな残留液(デッドボリューム)が残ります。この残留量は、ニードルの内径および接続形状によって異なります。たとえば、固定針型、またはRN交換針型の場合、小容量シリンジでは一般的に1 µL未満、大容量シリンジでは最大約6.8 µLのデッドボリュームが生じます。

バックフィル法とは

デッドボリュームが大きい場合、前述の方法ではシリンジ内を十分にプライミングできないことがあります。そのような場合は、バックフィル(背面充填)法を用いるのが最も有効です。この方法では、まずシリンジからプランジャーを取り外し、別のシリンジを使って背面側からサンプルを注入します。内部が完全に充填(プライミング)できたら、プランジャーを再装着して使用準備完了です。このような用途向けに、ハミルトン社ではプライミングキット(Priming Kit)を提供しています。

STEP5:サンプルの過剰吸引

必要な分注量よりも少し多めにサンプルを吸引します。

STEP6:規定容量への調整

シリンジ内に必要量のみが残るように、余分なサンプルをゆっくりと吐き出します。容量を合わせる際は、目盛り線と「プランジャーの先端」が平行・一致していることを目視で確認してください(ガスタイトシリンジの場合は白いPTFEチップの端、マイクロシリンジの場合は金属プランジャーの先端を基準にします)。その後、必要に応じてニードルの外側を糸くずの出ない低発塵ワイパー(キムワイプ等)で軽く拭き取ります。ただし、ワイパーが針先の開口部に触れると毛細管現象でサンプルが吸い取られてしまうため、絶対に先端の穴には触れないよう注意してください。

STEP7:最終分注

プランジャーをスムーズに押し込み、最終的なサンプル量を目的の容器(または注入口)に分注します。

STEP8:サンプル切替時の洗浄

サンプルのキャリーオーバー(残留・混入)を防ぐために、次のサンプルを吸引する前に、サンプルを溶解できる適切な洗浄溶媒でシリンジを5〜10回フラッシング(吸引・吐出)してください。

ポイント: 最初の2〜3回分の洗浄廃液は必ず廃液容器に捨ててください。これにより、洗浄溶媒のボトル自体がサンプルで汚染されるのを防ぐことができます。

ニードルが詰まってしまった場合

ニードルが詰まり、洗浄液を通せない状態になった場合は、クリーニングワイヤーを使用してください。まず、ニードル内径を通過できる最も細いワイヤーから始め、徐々に該当ゲージに対応するサイズまでワイヤー径を大きくしていきます。詰まりが取り除けたら、前述の方法に従ってニードルを洗浄・リンスしてください。

STEP9:保管前の洗浄

シリンジの使用後は、内部でのサンプルの固着や腐食を防ぐため、以下の手順で念入りに洗浄を行ってから保管してください。

1. 溶媒による洗浄: サンプルを溶解できる適切な洗浄溶媒でシリンジをすすぎ洗いします(必要に応じて、混和性のある他の溶媒も使用してください)。
2. 純水による洗浄: 次に、純水(脱イオン水)を使用して洗浄します。
3. アセトンによるリンス: 最後に、高純度アセトンで内部をリンスします。
4. 乾燥: アセトンが十分に揮発し、内部が完全に乾燥するまで待ちます。

注意:シリンジの浸漬放置は厳禁ですシリンジ全体を洗浄液に浸け置きしないでください。接着剤の劣化や破損の原因となります。

【推奨される洗浄剤について】
しつこい汚れに洗浄剤を使用する場合は、ガラスへのダメージを防ぐため「非アルカリ性・非リン酸塩系・非界面活性剤系」のものを推奨します。Hamiltonでは、シリンジ専用の生分解性・非リン酸塩・有機系洗浄液(Cleaning Solution Concentrate, Cat.No. 4015-96621)をご用意しています。これらの洗浄剤を使用した後は、必ず「純水(脱イオン水)でのリンス → アセトンでの洗浄・乾燥」のステップを行ってください。

STEP10:保管

洗浄と乾燥が終わったシリンジは、落下や衝撃による破損を防ぐため、購入時に付属していたパッケージに収納するか、専用のシリンジラック(品番: 204880)に立てて安全に保管してください。
ニードルはシリンジと一緒にシリンジの保管ケース、またはニードルの出荷時パッケージに収納してください。

特記事項:シリンジの溶媒耐性と推奨モデル

シリンジの溶媒耐性について

Hamiltonのマイクロシリンジおよびガスタイトシリンジ(固定針タイプ)のニードル接合部に使用されている接着剤は、業界最高クラスの非常に高い耐薬品性を備えています。しかし、特定の強力な溶媒を使用したり、長期間にわたり溶媒に曝露(ばくろ)されたりすると、まれに接着剤の劣化や溶解が生じる場合があります。特に、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒を扱う際には注意が必要です。

強力な溶媒を扱う際の推奨モデル

上記のような接着剤への影響が懸念される用途には、サンプル流路(液体が通る部分)に接着剤を一切使用していない「リムーバブルニードル(RN)タイプ」のシリンジのご使用を強く推奨します。RNタイプを選択することで、接着剤の溶出によるサンプル汚染や、ニードル脱落のリスクを確実に防ぐことができます。