充填剤の選び方 -固定相と担体の基礎ガイド-
5. 液相の選び方
5-1.試料の沸点差に着目する
カラムを選ぶときに最も大切なのは、適切な液相(固定相)を選定することです。
しかし、分析対象の種類や条件によって結果が大きく変わるため、これは簡単ではありません。
そのため、まずはGCメーカーが公開しているアプリケーション例や分析事例を参考にして液相を選ぶのが最も確実な方法です。まったく同じ条件の例がなくても、似た分析例を見ることで、どの液相が合いそうかの目安をつかむことができます。
一般的な目安(無極性~低極性カラムの場合)
| 試料間の沸点差 | 試料間の分離 |
|---|---|
| 20 ℃以上の差がある場合 | ほぼ確実に良好な分離が得られる |
| 10~20 ℃程度の差がある場合 | 温度条件やカラム長の調整により十分に分離可能 |
一方で、10 ℃未満の沸点差しかない場合には、低極性カラムでは分離が難しくなります。
このような場合には、固定相そのものの性質を理解して選ぶことが重要です。固定相の性質を考えるうえで大切なのが、極性と選択性です。
5.-2. 液相の極性と選択性とは
極性とは、液相そのものがどの程度の電気的な偏り(プラス・マイナスのかたより)を持っているかを示す性質です。固定相の極性は、どのようなタイプの化合物(極性・無極性)と親和性を持ちやすいかを決める基本的な特徴となります。
・無極性の液相と無極性のサンプル、または極性の液相と極性のサンプルは親和性が高く、
試料は液相中によく溶け込むため保持時間が長くなる。
・一方、無極性の液相と極性のサンプル、あるいは極性の液相と無極性のサンプルでは親和性が低く、
試料は液相にほとんど溶け込まないため保持時間が短くなる。
選択性とは、試料成分と固定相がどのように引き合うかという、両者の相互作用の強さを示す性質です。
固定相の化学構造や官能基の違いによって、沸点が近い成分でも保持時間に差が生じ、分離のしやすさが変化します。
・液相と性質の似たサンプルは親和性が高く、保持時間が長くなります。
・沸点が近い試料でも、液相との親和性が異なれば、親和性の高い試料の方が保持時間は長くなります。
極性と選択性は似ていますが、同じ意味ではありません。固定相の極性や選択性を数値で表す方法として、McReynolds(マクレイノルズ)定数があります。この定数を使うと、固定相どうしの性質の違いを数値(ΔIやΣ)で比較でき、さらに相対保持比(r値)と合わせて、目的の分析に適したカラムをより理論的に選ぶことができます。
5-3. McReynolds’ Constantsとは
McReynolds’ Constants(マクレイノルズ定数)とは、「固定相の極性」を定量的に比較するための指標です。アメリカの W.O. McReynolds により提案され、固定相の分離挙動を5種類の標準化合物に対する保持特性から数値化します。これにより、固定相の極性順位や選択性を定量的に比較できます。
測定の基本原理
McReynolds は、無極性固定相(Squalane)を基準として、他の固定相との保持時間差を求めました。
5種類のテスト化合物(いずれも有機化学的性質が異なる代表的化合物)を使います。
分析条件:シラン処理を施した白色珪藻土担体に液相を 20 % 含浸させた充填剤を
1/8インチ × 長さ1.8 m のカラムに充填し、カラム温度 120 ℃ の等温条件で分析
|
No.
|
テスト化合物 | 主な官能基 | 主な相互作用 | |
|---|---|---|---|---|
| Benzene | ![]() |
π電子系 (ベンゼン環) |
π–π相互作用 | |
| 1-Butanol | ![]() |
-OH (直鎖アルコール) |
水素結合性 | |
| 2-Pentanone | ![]() |
C=O (カルボニル) |
双極子相互作用 | |
| 1-Nitropropane | ![]() |
–NO₂ (ニトロ基) |
双極子-双極子 相互作用 |
|
| Pyridine | ![]() |
N含有塩基性
(ピリジン骨格) |
塩基性相互作用 | |
(参考) |
2-Methyl-2-pentanol | ![]() |
-OH (分岐アルコール) |
水素結合および 双極子–双極子 相互作用 |
(参考) |
2-Octyne | ![]() |
C≡C
(三重結合) |
π–π相互作用 および 誘起双極子 相互作用 |
※McReynolds’Constantsのテスト化合物は5種類です。6、7の化合物はMcReynolds’ Constantsの考え方を発展させて考えられたテスト化合物です。
定義式
r値(相対保持比, relative retention ratio)を求めます。
各化合物の保持指数差(ΔI)を求めます。
それぞれのΔIを求め、5化合物の平均値である総合McReynolds値(Σ値)を求めます。
5-4. McReynolds’ Constantsから液相を検討する
Σ値および⊿I 、r値は、固定相の極性や選択性(相互作用特性)を比較するうえで重要な指標となり、分析目的に応じた最適なカラム選定に役立ちます。
総合McReynolds値(Σ値)から分かること
5成分の⊿I を平均したΣ値(総合McReynolds値)は、固定相の総合的な極性レベルを示します。
Σ値が高くなるほど強い極性をもった液相といえますが、分離改善が可能な液相と考えられるのは、Σ値での差が、 100以上離れた液相です。
ある液相で分離できないものを、 Σ値の差で、 30程度の差の液相を使用しても、分離の改善は、期待できま せん。
| 固定相 | 主成分 | 総合McReynolds値 | 特長 |
|---|---|---|---|
保持指数差(⊿I )から分かること
各サンプルの⊿I 値に注目することにより、 選択性(分離特性)の異なる液相を選択することができます。
たとえば、 芳香族化 合物からアルコール類を分離させようとした場合、 芳香族化合物であるBenzene の⊿I 値、 アルコール類である n-Butanol の⊿I 値に注目します。
n - Butanol の⊿I 値が大きく、 Benzene の⊿I 値との差が大きいほどアルコール類の溶出が遅れ、分離が改善 されると考えられます。
| テスト化合物 | 主な官能基 | ⊿I 値が大きい場合に示す固定相の特徴 |
|---|---|---|
(ベンゼン環) |
(フェニル含有固定相など) |
|
(アルコール) |
(エーテル、エステル、ポリエチレングリコール系など) |
|
(カルボニル) |
||
(ニトロ基) |
||
(ピリジン骨格) |
r値(相対保持比, relative retention ratio)から分かること
n-Decaneと n-Dodecaneの保持比であるr値が高い液相ほど、 炭化水素間で高い分離を示すと考えられます。 たとえば、Apiezon N とSE-30では、Σ値はほとんど一緒であるが、r 値が前者の方が高く、同族炭化水素系内での分離の改善が期待できます。
| 液相 | r | |
|---|---|---|
| Apiezon N | 216 | 1.918 |
| SE-30 | 217 | 1.776 |
| OV-1 | 222 | 1.766 |
5-5. 液相選択のまとめ
| Σ値 |
:5種類のΔI値の平均値であり、固定相の総合的な極性レベルを示す。 値が大きいほど極性が高い固定相を意味する。 |
| ⊿I 値 |
:各テスト化合物との選択性(相互作用特性)を示す個別指標。固定相がどの種類の 分子間相互作用(π–π、水素結合、双極子相互作用など)を持つかを評価できる。 |
| r値 | :試料が非極性アルカン系列に対してどの程度遅れて溶出するかを示す相対保持比。 |
以上のように、液相の選定において マクレイノルズ定数(McReynolds’ Constant) は有用な指標です。
ただし、担体の種類や分析温度によっても分離パターンが変化する場合があるため、使用条件には十分な注意が必要です。


































