分取の上手な使い方
Ⅰ章- 3 分取カラムの種類
分取をする上で、まず始めに選択しなければいけないのがカラムです。どのようなカラムを使って、どのような分離モードで分取を行うかの選択は、分取を成功させるために最も重要な因子であるため、過去の経験や文献およびカタログ・データ集などを最大限に生かして慎重に行う必要があります。以下に、カラム充填剤・カラム素材・カラムサイズなどの項目に分類してまとめているので、カラム選択の参考にしてください。
充填剤の母体種類
シリカゲル母体
シリカゲル母体の充填剤は、高理論段数で耐圧が高く、しかも安価であることから現在最も幅広く使用されています。しかしながら、使用可能なpH範囲には制約があり、シリカゲルが溶解するアルカリ性移動相では使用できないという欠点があります。シリカゲルの処理方法を改善することで、pH10程度で使用可能になったカラム(InertSustainシリーズ)も揃えています。シリカゲルそのものをを使い、吸着現象を利用して分析する場合もありますが、ほとんどの場合、ODSに代表されるようなアルキル基をシリカゲル表面に化学結合した充填剤が使用されています。以前は、残存シラノールによる吸着やロット間のばらつきが問題にされましたが、これらの問題も改善されてきており、安心して使用できる充填剤が増えてきています。
ポリマー母体
シリカゲル母体の充填剤とは異なり、使用可能なpH範囲が広いため、アルカリ側で分析しなければならないサンプルに適しています。分取カラムでは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でよく使用されています。しかし、理論段数や耐圧の点に関しては、改良されてはいるもののシリカゲルに比べるとまだ劣っているのが現状です。充填剤の種類としては、骨格となるモノマーの性質によって親水性ゲル(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)と疎水性ゲル(ポリスチレン、ポリジビニルベンゼンなど)に大別されます。また、シリカゲル同様、これらのポリマーにODSなどのアルキル基を化学結合した充填剤もあります。
その他
HPLC用充填剤の母体としてその他に用いられている素材は、カーボン母体、ガラス母体、チタニア母体などがあります。これらは比較的最近になってその有用性が検討されている母体であり、アプリケーション開発も進んできているため、今後の発展に期待がかけられている充填剤です。
分離モードによる充填剤の種類
分子量
サンプルの大きさの順に充填剤の細孔から排除されていくことを利用するため、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と呼ばれています。目的サンプルの分子量分布や使用する移動相によって充填剤を選択します。
- カラム例
- Inertsil Diol / WP300 Diol
- Asahipak / GSシリーズ・HQシリーズ
- Shodex PAK / KFシリーズ・KBシリーズ
溶解度差
充填剤と移動相へのサンプルの分配を利用するため、分配(逆相)クロマトグラフィーと呼ばれています。充填剤の種類が豊富で、製造メーカーも多いため最も頻繁に使用されている方法ではありますが、同じODSシリカゲルでもメーカーによってその性能(特色)はさまざまであるため、分析目的に合わせた充填剤の選択が必要となります。
- カラム例
- シリカゲル母体 / InertSustain C18・Inertsil ODS-4・ODS-3・ODS-80A・C4・Ph-3
- ポリマー母体 / HAMILTON / PRP-1・PRP-3・PRP-∞
吸着性
目的成分の充填剤への吸着作用を利用するため吸着クロマトグラフィーと呼ばれています。シリカゲル・アルミナなどの母体に高極性基を導入した充填剤や、化学結合させていない母体自身を使用して、順相モードもしくは親水性相互作用(HILIC)モードで分析を行います。充填剤が活性化されていないと吸着作用が生じないので、溶離液への置換は充分に行ってください。
<順相モード> 水となじまないサンプルの場合に
- カラム例
- Inertsil SIL・PREP-SIL・Inertsil Diol・Inertsil NH2
<HILICモード> 親水性の高い成分を分離したい場合に
- カラム例
- Inertsil Amide・Inertsil HILIC
光学異性
- カラム例
- CHIRALPAK AD、CHIRALCEL OD
カラムの材質
ガラス
金属との接触を嫌う分析に最適ですが、耐圧が低いためカラムクロマトなどに使用します。分取で使用する場合が多いです。
ステンレス
耐圧が高く、最も一般的に使用されています。メーカーによってジョイント形式が異なりますので注意が必要です。
ピーク
金属の影響を受けず、しかも高耐圧であるためバイオ関連の高速分析に適しています。
カラムの長さ
50mm以下
主に本カラムを保護するガードカラムとして使用されます。
50~100mm
高理論段数が得られる3µm充填剤で使用されることが多い長さです。分離に支障がなければ、短時間で分取が可能になります。
100mm~250mm
5µmの充填剤でも充分な理論段数が得られるため、最も一般的に使用されている長さです。分取HPLCでは、高理論段数で分離の得られ易い5µmの充填剤の250mmカラムを使用することをお薦めします。
250mm以上
分取クロマトグラフィーなどにおいては速い流速で分析を行うため、粒径が10µmより大きくて圧力の低い充填剤を使用します。粒径の大きな充填剤は理論段数が得られにくいため、分取などでは長いカラムを使用して理論段数の低さを補います。また、サイズ排除クロマトグラフィーにおいても同様の目的で長いカラムが使用されます。
カラムの内径
分取カラムは、10mmから100mmの分取用までさまざまな内径のカラムがあり、使用目的に応じて使い分けることができます。充填剤やカラム長さなどの内径以外の条件がすべて同一であるとすれば、流量およびサンプル負荷量をカラムの断面積に比例して換えることにより、ほとんど同じクロマトグラムが得られます。以下に、分取で一般的に使われているカラムの内径と使用流量(5µm粒子カラムの場合)をまとめましたので、参考にしてください。
内径(mm)
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使用流量の目安(mL/min)*1
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備考
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逆相
/順相 |
SEC
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HILIC
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キラル
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4.6
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1
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0.2~0.3
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0.5
|
1
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一般的な分析カラムのサイズです。分取カラムを検討する際には、まずはこのサイズで分析するのが一般的です。
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7.6~8.0
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2.7
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0.5~1.0
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1.4
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2.7
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一般的な分析装置で使用できるセミ分取HPLCカラムです。SECでのスケールアップ検討には内径7.6 mm~8.0 mm程度のカラムを使用するのが一般的です。
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10
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5
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1.0~1.5
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2.4
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5
|
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14
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9.2
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1.8~2.5
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4.6
|
-
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20
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19
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3.8~5.4
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9.5
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19
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分取HPLC用カラムです。流量範囲が大きくなるため専用の装置が必要になります。また、内径50 mm以上のサイズについては、締め付け時の簡便化のためにフランジ形式のカラムが採用されることが多いです。
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30
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45
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9.0~14
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21
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45
|
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50
|
130
|
26~
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60
|
50*3
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100
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240*2
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48~72*2
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120*2
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200*3
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*1:5µm粒子カラムの場合
*2:10µm粒子カラムの場合
*3:20µm粒子カラムの場合