分取の上手な使い方
Ⅲ章-5 リサイクル分取について
“カラムを長くして理論段数をかせぎ、分離を改善する”
ごく当たり前の事ですが、HPLCでは圧力面の問題からカラムの長さには限界があります。
リサイクル分取HPLCとは、1本のカラムを用い、カラムから溶出した移動相(目的成分を含む)をそのまま再びカラムに供給することにより、擬似的にカラムを長くさせる分析テクニックです。特に、分取では使用カラム本数と使用溶媒量の削減効果が大きいためリサイクル分取が有効です。
効率のよいリサイクル分取をするために
システムデットボリュームを最小限に抑える
効率よくリサイクル分離を行うためには、理想のリサイクル分離にいかに近づけるかがポイントになります。理想のリサイクル分離とは、リサイクルする毎に理論段数が増加し複数本のカラムを連結した場合と同等の理論段数が得られることです。カラムの分離性能は理論段数で示すことができ、理論段数が高くなるほど分離はよくなることを意味します。
例えば、理論段数が20,000段のカラムがあった場合・・・
理想のリサイクル分離では
下図の青線で示すように理想のリサイクル分離では、リサイクルを1回すると20,000段増加し、リサイクル前の理論段数と合わせて理論段数が40,000段になります。
実際のリサイクル分離では
下図の赤線で示すように実際のリサイクル分離では、理論段数は30,000段となり理想の理論段数と差が見られます。この差は主にシステムデットボリューム(カラム出口から再びカラム入口に至るまでのボリューム)により発生し、システムデットボリュームが大きいほど差が大きくなります。
ひどい場合は、リサイクル分離を行うと理論段数が低下(=分離が悪化)することがあります。
このように、理想のリサイクル分離と実際のリサイクル分離では差があります。この原因はシステムデッドボリュームによるサンプル拡散です。
リサイクル分取におけるデットボリュームについて
リサイクル分取HPLCでは、次のような箇所のシステムデットボリュームによってサンプルが拡散し、分離に影響を与えます。
- ポンプ内拡散
リサイクル分離では、カラムから溶出した移動相(目的成分を含む)をそのままポンプへ送り、再びカラムへ供給するためポンプ内におけるサンプル拡散に注意する必要があります。
分取用HPLCポンプはいくつか種類があり、主な種類としては直列ダブルプランジャーポンプと並列ダブルプランジャーポンプがあります。直列ダブルプランジャーポンプは、2箇所のポンプヘッド内をサンプルが通るためポンプ内での拡散が大きくなります。一方、並列ダブルプランジャーポンプの場合は、サンプルは1箇所のポンプヘッドのみを通るためポンプ内拡散を抑えることができます。そのため、PLC761分取システムでは、ポンプ内拡散を抑えるために並列ダブルプランジャーポンプを採用しています。
- インジェクター(サンプルループ)内拡散
- ミキサー内拡散
- 配管内拡散
DVCS機構はリサイクル分離時のデットボリュームとなる、ポンプ出口からカラム入口までの流路(ミキサーやインジェクターなど)をカットし、リサイクル効率を高める効果があります。
リサイクル分取では、オートサンプラーなどのインジェクターやサンプルループ、ミキサー、そして流路配管内がデットボリュームとなり、サンプル拡散が起こり分離効果が低下します。リサイクル分取の際は、これらの流路を通らず、ポンプからカラムへ最短ルートで流路がつながるように切り換えるDVCS(デットボリュームカットシステム)機構が有効です。
プレヒートミキサーの使用は、リサイクル分離を行う前のピーク形状の改善に寄与します。十分なプレヒート効果、ミキシング効果を得るためには一定のボリュームが必要です。しかしながら、リサイクル分離時にはピーク形状に大きく影響するデッドボリュームになります。DVCS 機構は、このジレンマを解消するための手法です。
また、リサイクル分離を行う前のピーク形状の改善及び保持時間の再現性を得るためには、オーブンによる温調など温度管理を考慮したシステムの使用が効果的です。(下記リンク参照)
DVCS(デットボリュームカットシステム)機構の効果について
DVCS機構はリサイクル分離時のデットボリュームとなる、ポンプ出口からカラム入口までの流路(ミキサーやインジェクターなど)をカットし、リサイクル効率を高める効果があります。
下図は、DVCS機構を使用した場合と使用しない場合で理論段数を比較したものになります。DVCS機構を使用した場合の理論段数は理想に近い形で増加しています。一方、DVCS機構を使用しない場合の理論段数は、リサイクル分取を行うことで悪化しています。リサイクル分取は分離を改善することを目的としますが、カラム外拡散が多くなるとリサイクル効果が十分に得られないばかりか、リサイクルをすることで余計に分離が悪くなってしまう場合があります。そのため、リサイクル分取に最適化した分取HPLC装置を使用することが大切です。