分取の上手な使い方
Ⅱ章-4 移動相選択について
移動相選択のポイント
分取HPLCで使用する移動相は次のような点に注意して選択してください。
- 溶媒コストを考慮
- 揮発性の移動相を用いる
溶媒コストの考慮
分取では大量の溶媒を使用しますので溶媒コストを考慮してメソッドを構築する必要があります。
次の表はあるメーカーの溶媒1Lあたりの価格を示します。
グレード | メタノール | アセトニトリル | THF |
---|---|---|---|
HPLC | ¥1,500 | ¥6,000 | ¥5,700 |
特級 | ¥1,400 | ¥3,200 | ¥3,000 |
1級 | ¥1,200 | ¥2,600 | ¥2,600 |
このように溶媒種やグレードによってコストが大きく変わります。1級、特級、HPLC用など多くのグレードの有機溶媒が市販されています。含有している不純物の量や安定剤などの添加物の有無によってグレード分けされています。下図にメタノール、アセトニトリルとテトラヒドロフラン(THF)のグレード別のUV吸収を示します。メタノールはほとんどグレードに差がありません。アセトニトリルは特級・1級ではメタノールと同程度のUV吸収があります。THFの特級・1級グレードには酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が含まれているため、260nm~290nmに大きなUV吸収があります。BHTの沸点は約265ºCであり、分取HPLCでは濃縮精製するにあたり脱塩処理が必要になるので注意が必要です。
UV検出器を使用する場合、メタノールや特級・1級アセトニトリルは低波長領域(250nm以下)では吸収を持つため使用し難いですが、分取HPLCの場合は目的成分のピーク強度も大きいため低波長領域であっても問題にならない可能性があります。溶媒コストの面からは低グレードの溶媒やメタノールが最適です。ただし、各溶媒の不純物の影響を考慮する必要があります。
揮発性の移動相を用いる(試薬)
移動相のpHを変える場合やイオン対試薬を使用する場合などで移動相に試薬を添加することがあります。分取HPLCに使用する試薬に求められることは、揮発性があることです。分取HPLCでは、後処理として脱塩が必要になる揮発性の低い試薬の使用は避けた方がよいでしょう。次に分取HPLCでよく用いられる試薬を紹介します。 目的成分の性質や目的によって使用する塩の種類は変わります。化合物の解離状態に応じて試薬を選択することがポイントになります。試薬の濃度は固体であれば5mM~50mM程度、液体であれば0.1%程度が目安になります。
目的化合物の種類 | 早くシャープに溶出させる場合 (化合物の解離を促す) |
保持時間を長くする場合 (化合物の解離を抑制) |
---|---|---|
酸性化合物 | NH4HCO3 (pH 7.0; HCOOH) | HCOOH |
中性化合物 | なし | なし |
塩基性化合物 | HCOOH | NH4HCO3(pH 7.0; HCOOH) |
揮発性の移動相を用いる(イオン対試薬)
揮発性が高く、分取HPLCにおいて用いられるイオン対試薬は、次のようなものがあります。イオン対試薬の濃度は固体で5mM程度、液体で0.1%程度が目安になります。
目的成分の種類 | イオン対剤の使用例 |
---|---|
酸性化合物 | (CH3CH2CH2CH2)2NH,NH4HCO3 (pH 7.0; CH3COOH) |
中性化合物 | なし |
塩基性化合物 | TFA、IPCC MS-3、IPCC MS-7 等 |
注)pHはサンプルに応じて調整してください。
LC/MS用イオン対試薬であるIPCC-MS3は、揮発性を有するため分画液からの除去がし易く、分取HPLCに有効な場合があります。
その他
揮発性が高く、分取HPLCにおいて用いられるイオン対試薬は、次のようなものがあります。
緩衝液作製に使われる試薬 | HCOONH4、CH3COONH4、NH3 |
---|---|
酸性化合物用イオン対試薬 | (CH3CH2CH2)2NH、(CH3CH2)3N |
塩基性化合物用イオン対試薬 | PFPA |
以上のような試薬がありますが、揮発性が高いため移動相中の濃度変化に注意する必要があります。移動相の取り置きは避けてください。また、上記の試薬は揮発性は比較的高いですが、濃縮精製する場合など後処理方法によっては影響する可能性があるので、充分に予備実験を行ってから使用することをお薦めします。