HPLCの上手な使い方
Ⅰ章 -2 カラムの種類
サンプルの前処理も終了し、さて分析を・・・という段階でまず始めに選択しなければいけないのが分析カラムです。どのようなカラムを使って、どういうモードで分析を行うかの選択は、分析を成功させるために最も重要な因子であるため、過去の経験や文献およびカタログ・データ集などを最大限に生かして慎重に行う必要があります。以下に、カラムの種類について充填剤・カラム素材・カラムサイズなどの項目に分類してまとめましたので、カラム選択の参考にしてください。
充填剤の母体種類
シリカゲル母体
シリカゲル母体の充填剤は、高理論段数が得られて耐圧が高く、しかも安価であることから現在最も幅広く使用されています。しかしながら、使用可能なpH範囲には制約があり、シリカゲルが溶解するアルカリ性溶離液では使用できないという欠点があります。シリカゲル自身を使い、吸着現象を利用して分析することもありますが、ほとんどの場合、ODSに代表されるようなアルキル基をシリカゲル表面に化学結合した充填剤が使用されています。以前は、残存シラノールによる吸着やロット間のばらつきが問題にされましたが、品質管理などにも安心して使用できる充填剤が増えてきています。
ポリマー母体
シリカゲル母体の充填剤とは異なり、使用可能なpH範囲が広いため、アルカリ側で分析しなければならない試料に適しています。特に、種々のpHで使用されるイオン交換クロマトグラフィーや吸着作用が生じてはいけないサイズ排除クロマトグラフィーなどでは、よく使用されています。しかしながら理論段数や耐圧の点に関してはかなり改良されてはいるものの、シリカゲルに比べるとまだ劣っているのが現状です。充填剤の種類としては、骨格となるモノマーの性質によって親水性ゲル(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)と疎水性ゲル(ポリスチレン、ポリジビニルベンゼンなど)に大別されます。また、シリカゲル同様、これらのポリマーにODSなどのアルキル基を化学結合した充填剤もあります。
その他
HPLC用充填剤の母体としてそのほかに用いられている素材は、カーボン母体、ガラス母体、チタニア母体などがあります。これらは比較的最近になってその有用性が検討されている母体であり、アプリケーション開発も進んできているため、今後の発展に期待がかけられている充填剤です。
分離モードによる充填剤の種類
溶解度差
充填剤と溶離液へのサンプルの分配を利用するため、分配(逆相)クロマトグラフィーと呼ばれています。充填剤の種類が豊富で、製造メーカーも多いため最も頻繁に使用されている方法ではありますが、同じ官能基のカラムでもメーカーによってその性能(特色)はさまざまであるため、分析目的に合わせた充填剤の選択が必要となります。
吸着性
目的成分の充填剤への吸着作用を利用するため吸着クロマトグラフィーと呼ばれています。シリカゲル・アルミナなどの母体に高極性基を導入した充填剤や、化学結合させていない母体自身を使用して、順相モードで分析を行います。充填剤が活性化されていないと吸着作用が生じませんので、溶離液への置換は充分に行ってください。
イオン化
試料と固定相との間のイオン交換作用を利用するため、イオン交換クロマトグラフィーと呼ばれています。カチオン交換体とアニオン交換体があり、分析試料のイオン性によって選択できますが、溶離液のpHやイオン強度が分析に大きく影響するため、溶離液の作成には細心の注意が必要です。逆相系カラムでイオン対試薬を使用して分析する手法も、幅広く用いられています。この場合、高不活性充填剤の使用をお薦めします。
カチオン交換体
Inertsil CX
HAMILTON / PRP-X200・X300・X400
アニオン交換体
Inertsil AX
InertSustain NH2
HAMILTON / PRP-X100・PCX-10
分子量
試料の大きさの順に充填剤の細孔から排除されていくことを利用するため、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と呼ばれています。目的試料の分子量分布や使用する溶離液によって充填剤を選択します。
Asahipak / GSシリーズ・HQシリーズ
Shodex PAK / KFシリーズ・KBシリーズ
その他
専用充填剤があります。
充填剤・光学異性体用充填剤・内面逆相タイプ充填剤など、汎用ではありませんが特殊な分析に効果を発揮する専用充填剤があります。
InertSphereシリーズ(有機酸分析、糖分析)
Delay column for PFAS(PFAS分析)
SYPRONシリーズ(陰イオン分析)
MonoSelect RP-mAb(モノクローナル抗体分析)
MonoSelect nPEC(ナノ粒子分析)
カラムの材質
ステンレス
耐圧が高く最も一般的に使用されています。メーカーによってジョイント形式が異なりますので注意が必要です。(IIIー5参照)
PEEK(ピーク)
ポリエーテルエーテルケトンという樹脂を略してPEEKと呼びます。
金属の影響を受ける化合物を分析する場合に適しています。
近年では、ステンレス管の内側にPEEK管を入れ二重構造をとったメタルフリーカラムと呼ばれる製品もあります。
ガラス
金属との接触を嫌う分析に最適ですが、耐圧が低いためカラムクロマトなどに使用します。
ガラスライニング
内径の細いカラムで分析を行う場合、ガラスライニングを使用しないと充分な理論段数が得られないことがあります。(内壁の影響)
カラムの長さ
50mm未満
主に本カラムを保護するガードカラムとして使用されます。サンプルや溶離液中不純物の影響を受けて劣化しやすいため、交換の簡単なカートリッジ方式のカラムが便利です。
50mm、75mm、100mm
超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)と呼ばれる、粒子径2μm以下の充填剤を使用する際に良く使われる長さです。粒子径3μmで高速分析を目指す際にも利用されています。
150mm、250mm
5µmの充填剤でも充分な理論段数が得られるため、最も一般的に使用されている長さです。
初めての分析には、250mmのカラムを使用して分離状況を確認することをお薦めします。
分離に支障がなければ、低圧力で分析の行える150mmのカラムをお薦めします。
250mm以上
分取クロマトグラフィーなどにおいては速い流速で分析を行うため、粒径が大きくて圧力の低い充填剤を使用します。粒径の大きな充填剤は理論段数が得られにくいため、分取などでは長いカラムを使用して理論段数の低さを補います。また、サイズ排除クロマトグラフィーにおいても同様の目的で長いカラムが使用されます。
カラムの内径
0.7mmのマイクロ用から100mmの分取用までさまざまな内径のカラムがあり、使用目的に応じて使い分けることができます。充填剤やカラム長さなどの内径以外の条件がすべて同一であるとすれば、流速および試料負荷量をカラムの断面積に比例して換えることにより、ほとんど同じクロマトグラムが得られます。以下に、一般的に使われているカラムの内径と使用流速をまとめましたので、参考にしてください。
内径 |
推奨流速 | 備考 |
---|---|---|
0.7mm 1.0mm 1.5mm |
25µL/min 50µL/min 100µL/min |
マイクロカラム(セミマイクロカラム)であり、小さい流速で分析を行えるため、SFCやLC-MSに最適です。通常はは5µmの充填剤が使用されます。 |
4.6mm 6.0mm |
1.0mL/min 1.7mL/min |
最も一般的な分析用カラムです。充填剤としては、ほとんどの場合5µmが使用されます。 |
20mm 30mm 50mm 100mm |
10mL/min 25mL/min 70mL/min 200mL/min |
分取用カラムであるため、10µm以上の充填剤が使用されます。また、50mm以上のサイズについては、締め付け時の簡便化のためにフランジ形式のカラムが採用されていることが多いようです。 |
表中に示した流速で使用する場合でもサンプルの絶対量が多すぎると充分な理論段数が得られないことがあります。下図に、5µmのODSシリカゲルを充填したカラムにおけるサンプル負荷量と理論段数の関係をカラム内径ごとに示しますので、サンプル注入時の参考にしてください。