HPLCの上手な使い方
Ⅱ章-3 水中の不純物について
近年、酸性雨や工場排水などの環境問題により水道水の汚染が注目され、水道の蛇口に取り付けるだけで水をきれいにすることができる“清浄器”なるすぐれ物が流行しています。この水の問題は、日本だけでなく欧米諸国でも騒がれていますが、HPLCにおいても水の汚れが大きな問題となってきます。通常、逆相クロマトグラフィーでは水と有機溶媒を混合して分析を行いますが、この際の水として汚染した水道水を用いることはまず考えられず、ほとんどの場合きれいに精製した水を使用しています。もし仮に、特別な理由がなく水道水をお使いになっている方がいるとすれば、今すぐにでもポンプを停止させた方がよいでしょう。何故なら、汚染した水を使用することは、分析結果に影響を与えるだけでなく、カラムの性能を劣化させる原因にもなるからです。以下に、HPLCで使用する水について精製法を中心に説明します。
水中の不純物のGC分析
まず最初に、きれいに精製した水とイオン交換しただけの水をパージ&トラップ濃縮導入装置LSC-2000(テクマー社製)を用いてガスクロマトグラフに注入し、それぞれの揮発性不純物の量を比較してみました。クロマトより、明らかに不純物の量の違いがわかります。
水中の不純物がHPLC分析に与える影響
4種類の方法によって水を精製し、その水をODSカラムに60分間通液して蓄積される脂溶性不純物の量を比較してみました。なお、蓄積された不純物はアセトニトリル 100%まで20分でグラジエント溶出し、UV 220nmでモニターしました。下図より、精製方法が違うと残存する不純物の量に差があることは明らかであり、この不純物がこのようにクロマト上にピークとして溶出してくるとサンプルの検出を妨害することにもなります。
超純水 | 精製水 |
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イオン交換水にUV照射して殺菌した後、活性炭カラムを通して有機物を除去し、最後に0.22µmのメンブランフィルターで濾過 | イオン交換水を活性炭フィルターに通した後、さらにイオン交換し最後に0.20µmのメンブランフィルターで濾過 |
蒸留水 | イオン交換水 |
イオン交換水を簡易蒸留 | イオン交換カートリッジに通す |
超純水:日本ミリポアリミテッド社製 MILLI-Q SP TOC SYSTEMを用いて精製
精製水:ヤマト科学社製 ピュアラインWL21型を用いて精製
充填剤への不純物の蓄積について
前頁に記載したゴーストピークは、水中の脂溶性不純物が有機溶媒組成の低い初期の段階でカラム内に蓄積され、その後、より溶出力の強い溶離液に変わっていくにつれて徐々に流れ出したものであると考えられます。この場合のように有機溶媒組成の高い溶離液で洗浄できる不純物は問題ないのですが、脂溶性のより強い不純物の中には逆相カラム内に吸着してしまうと完全に取り除けないものもあります。これらが連続的にカラム内に吸着されていくと、最終的には充填剤表面が覆われて理論段数の低下や保持パターンの変化が見られるようになります。充填剤中に不純物が蓄積されてしまう例として、ポンプとインジェクターの間にプレカラムを取り付けてイオン交換水を200時間(流速:1mL/min)通液した後の充填剤写真を以下に示します。
写真を見ると充填剤の上部に汚れが濃縮されているのが明らかにわかります。したがって、今回のように有機溶媒組成のきわめて低い条件からグラジエント分析を行う場合には、できるかぎり精製した水(例えば超純水)を使用することをお薦めします。またいくらきれいに精製した水でも、時間が経つにつれ空気中の有機物が溶解したり、保存容器から不純物が溶出したりすることがありますので、できるだけ使用直前に精製するよう心がけてください。
しかしながら、水をきれいに精製するためにはかなりの手間と時間を要したり、前述したような高価な装置が必要であったりするため、ついつい簡単に精製した水を用いて分析を行ってしまう方が多いようです。得られたクロマトに異常が無いからといって精製不充分な水を用いたのでは、既に述べたようにカラムの寿命を短くしてしまうことになります。そこで弊社が開発した製品が、今回使用したプレカラムである『プレクリーンORG』というカートリッジカラムです。このカラムは、ポンプとインジェクターの間に取り付けるだけで溶離液中の不純物を除去できるため、高価な装置を購入したり、手間をかけて水を精製しなくてもそれらの水を使用するのと同じような効果が得られる画期的な製品です。特に、有機溶媒組成の低い溶離液を用いて分析をされている方にお薦めの一本です。
プレクリーンORGの効果
前頁に記載したプレクリーンORGを用いて溶離液中の不純物を除去することによって、分析カラムの寿命が大幅に延びることの例として、ODSカラムを用いて核酸塩基およびヌクレオチドの分析を繰り返し行い、そのピーク形状を確認しました。
昼夜を問わず溶離液を流しつづけた結果、プレクリーンORGを使用しない場合は100時間程度でピーク割れやテーリングを起こしていますが、プレクリーンORGを使用した場合には400時間経過してもほとんどピーク形状に変化は見られません。
Conditions
Column
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:
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ODS 150×4.6mmI.D.
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Eluent
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:
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0.2M NaCIO4+20mM KH2PO4(pH=2)
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Flow Rate
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:
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1.2mL/min
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Col.Temp.
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:
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40℃
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Detector
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:
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UV 260nm
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Sample
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1.Cytosine
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2.Guanine
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3.Uridine
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4.Tymine
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5.Adenosine
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6.Guanosine
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7.Thymidine
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上図の結果から、プレクリーンORGを使用するとカラムの寿命が大幅に改善できることがおわかりいただけると思います。この分析は100%水系というかなり厳しい条件であったため極端に差が現れましたが、有機溶媒を含む溶離液を用いた場合でも、今回ほど顕著ではありませんが、必ずカラム寿命に差が現れてくるはずです。
プレクリーンORGについて
特長
- 溶離液中の不純物を除去するためのカラムです。
- ポンプとインジェクターの間に取り付けるため、ポンプから出てくるゴミやカスなども取り除けます。(ラインフィルター効果)
- カートリッジ方式なのでカラム交換が簡単です。
- カートリッジの耐圧は、手締めで約200Kgf/ cm2、スパナがけで約350Kgf/cm2です。
プレクリーンORGの接続方法
使用上の注意点
- プレクリーンORGはガードカラムではないので、インジェクターの後には絶対に取り付けないでください。カラム容量がそのままデッドボリュームになるため、ピークがブロードになったり分離パターンが変化したりします。
- 使用可能なpH範囲は2.0~7.5です。このpH域以外で使用されると、充填物の成分が溶出する場合があります。
- 接続は1/16inchウォーターズタイプに限らせていただきます。
- 有機溶媒組成の高い溶離液でカラム洗浄を行う際には、まず分析カラムをはずしてプレクリーンORGだけを洗浄した後、分析カラムを接続し、カラム洗浄を行うようにこころがけてください。