HPLCの上手な使い方
Ⅱ章-8 溶離液の節約
ルーチンなどで毎日同じ分析を繰り返し行う場合、溶離液の調製が非常に面倒な作業となってきます。「この溶離液が繰り返し使えたらな~」などということを考えた人も少なくないはずです。ここでは、<分析スケールの縮小>と<溶離液の循環>という2つの方法から溶離液の節約についてまとめました。溶離液の節約を考える際の参考にしてください。
分析スケールの縮小
通常の分析においては、内径4.0~6.0程度のカラムを流速1mL/minで使用しますが、カラムの内径をより細くすることによって流速が小さくなるため、溶離液の節約が可能となります。その一例として、内径の異なる3種類のカラムでの溶離液消費量を下表にまとめました。
カラム内径 |
4.6mm | 1.5mm | 0.7mm |
---|---|---|---|
分析流速 | 1.0mL/min | 100µL/min | 25µL/min |
1日(8時間)の溶離液消費量 | 480mL | 48mL | 12mL |
1年(200日)の溶離液消費量 | 96000mL |
9600mL | 2400mL |
1Lの溶離液で分析できる日数 | 約2日 | 約1ヶ月 | 約4ヶ月 |
このように、カラム内径を細くすることによって溶離液はかなり節約できますが、カラムのスケールダウンに伴っていくつか注意しなければならない点があります。その一つとして、インジェクターや検出器セルを含めた配管系があげられます。マイクロカラムでは流速が小さいため、ライン中のデッドボリュームが大きいとサンプルのカラム外拡散が起こり、クロマトグラムに影響が現れてきます(Ⅲ章-3参照)。したがって、インジェクターにはできるだけ内部ボリュームの小さいタイプ(例えばレオダインMODEL 7520)、検出器セルはマイクロ用を使用しなければなりません。さらに配管接続も、できるだけ内径の細いチューブを短く使用する必要があります。上図は、マイクロ用の配管系と通常の配管系で同じ分析を行った結果をグラフにしたものですが、明らかに理論段数が違うことがわかります。このようにマイクロカラムを用いて分析を行う際には、配管系にも充分な注意が必要となります。
溶離液の循環
グラジエント分析では不可能ですが、アイソクラティック分析においては、サンプルの混入さえ妨げれば何回でも繰り返して溶離液を使用することが可能です。サンプルを混入させないためには、ピークが検出されている時間帯だけ溶離液を廃棄すればいいのですが、とは言うものの、分析しているあいだ中、装置の前で待機しているわけにもいかないのが現状です。そのような場合に使用するのがソルベントリサイクラーという装置です。この装置は、下のシステム図のように、検出器から取り入れた信号によってバルブを自動的に切り換え、サンプルを含む溶離液だけを廃棄することによって、溶媒消費量を大幅に節減することを目的としています。
また、さまざまな機能が備え付けられていますので、各機能を有効に利用することによって複雑なパターンのクロマトグラムにも応用できます。代表的な機能について以下に簡単に説明します。
THRESHOLD
検出器のフルスケールに対する%値を設定し、検出器からの信号がこの数値以上になると、自動的にバルブを切り替えて溶離液を廃棄させる機能。 0.0~20.0%までの設定が可能。また機能選択スイッチにより、この設定値が正ピークだけに効くモードと正負の両ピークに対して効くモードを選択できる。
DELAY TIME
検出器からの信号がTHRESHOLD値以下になっても溶離液を廃棄し続ける時間を設定し、テーリングしやすいサンプルを溶離液中に混入させないための機能。0~60秒までの設定が可能。
操作モード
溶離液がすべて廃棄されるMANUALモード、各機能の設定値にしたがってバルブを自動に切り換えるAUTOモード、外部装置から信号を送ってバルブを切り換えるREMOTEモード、の3種類からどれかひとつのモードを選択できる。
ソルベントリサイクラーの使用例
このソルベントリサイクラーを実際に使用して、溶離液をリサイクルさせた例を以下に示します。各機能はTHRESHOLD値が1.0%、DELAY TIME値は最もテーリングが著しい3番目のピークを基準として20秒にそれぞれ設定しました。操作モードとしては、各設定値にしたがって自動的にバルブが切り替わるようにAUTOを選択しています。右図において、クロマトグラムの下にある指標中の黒塗りの部分が溶離液を廃棄している時間帯です。この分析では約70%の溶離液をリサイクルすることができました。また、リサイクルによる溶離液の汚染に関しては、サンプルの混入が若干認められますが、350回連続分析においてもベースライン変動等は見られず、保持時間のC.V.値も0.5%以内であったため、単純なルーチン分析などではほとんど影響がないと考えられます。
ソルベントリサイクラー使用上の注意点
- グラジエントなどの溶離液の組成変化を伴う分析には使用できません。
- 上記の例では70%の溶離液が節減できていますが、各機能の設定値や分析試料によって回収率は異なってきます。
- 装置本体の電源がOFFになっている時は、溶離液はすべてリサイクルされていますので注意してください。
- 検出器の後に接続するため、セルの耐圧には細心の注意が必要です。
- 溶離液を続けて使用することになるため、脱気は脱気装置などでオンライン脱気を行なってください。
- 緩衡液やイオン対試薬を使用した後は、必ずラインの洗浄を行ってください。試薬がバルブ内で析出し、動作不良が起こる可能性があります。